「なぜ、自分ばかりこんな目に遭うんだろう?」
「あの時、あんな環境じゃなかったら、もっとうまくいっていたのに」
仕事やプライベートで行き詰まったとき、ふとそんな言葉が頭をよぎることはありませんか?
私たちはつい、今の自分がうまくいかない理由を「過去の出来事」や「置かれた環境」のせいにしたくなります。しかし、アドラー心理学では、こう断言します。
「あなたの人生を決めたのは、親でも環境でも運命でもない。あなた自身である」
これは一見厳しい言葉に聞こえますが、裏を返せば**「自分の人生は、今この瞬間から自分の手で変えることができる」**という、最強の希望のメッセージでもあります。
今回は、アドラー心理学の核心概念の一つである**「自己決定性」**について、具体的な事例を交えて解説します。
1. 「運命の犠牲者」か、「運命の主人公」か
アドラー心理学では、人生におけるすべての結果は、誰かや何かに強制されたものではなく、**最終的に「自分で選んだもの」だと考えます。これを「自己決定性」**と呼びます。
例えば、「生まれつき身体が弱い」「貧しい家に生まれた」といった事実は変えられません。しかし、それをどう解釈し、どう生きるか(ライフスタイル)を選んだのは自分自身です。
運命の犠牲者:「環境が悪かったから、自分は不幸になっても仕方がない」と嘆く。
運命の主人公:「環境はこうだった。じゃあ、これからどう生きようか?」と考える。
この視点の違いが、未来を劇的に変えていきます。
2. 【新しい事例】苦手な上司のせいで、仕事が辛い?
ここで、よくある職場の悩みを使って「自己決定性」を考えてみましょう。
【事例】
入社3年目のAさん。直属の上司は非常に細かく、威圧的な物言いで指示をしてきます。Aさんは毎日萎縮してしまい、最近では報告をするのも億劫で、仕事のパフォーマンスも落ちてしまいました。
Aさんはこう考えています。
「あの上司の性格が最悪だから、自分は本来の力が発揮できない。この部署にいる限り、自分は成長できない不幸な被害者だ」
これは、**「原因論(過去や他人が原因で、今の結果がある)」**の考え方です。
アドラー流「自己決定性」での解釈
しかし、アドラー心理学の視点(自己決定性)で見ると、解釈はガラリと変わります。
Aさんが「萎縮してパフォーマンスが落ちている」のは、上司のせいではなく、Aさん自身が「上司のせいにすること」を選んでいると考えます。
少しショッキングかもしれませんが、Aさんの無意識の目的(ゴール)を見てみましょう。
目的: 失敗した時に傷つきたくない、責任を取りたくない。
手段: 「上司が悪い」という状況を作り出すために、あえて萎縮し、能力を発揮しないことを選んでいる。
もしAさんが本当に状況を変えたいなら、上司に別のアプローチを試したり、異動願いを出したり、あるいは転職活動をすることもできるはずです。しかし、「上司が悪いから動けない」と嘆いている今の状態は、「現状維持(変わるリスクを負わないこと)」をAさん自身が決定していることになるのです。
3. 注意:これは「自己責任論」ではない
ここで一つ、大切な補足をさせてください。
「自己決定性」の話をすると、「結局、全部自分のせいってこと?」「辛い状況にいる人を責めているのでは?」と感じる方もいるかもしれません。しかし、アドラー心理学の「自己決定性」と、世間で言われる「自己責任論」は、まったく別物です。
自己責任論自己決定性(アドラー心理学)視点過去を向いている未来を向いている目的責任の所在を追及し、裁く自分の選択肢を取り戻すメッセージ「お前が悪い」「あなたには変える力がある」自己責任論は、「今の状況になったのはお前の責任だ」と過去を断罪し、相手を追い詰めます。一方、自己決定性は、「過去に何があったとしても、これからの選択はあなたの手の中にある」と未来への希望を示すものです。
パワハラやハラスメントなど、明らかに環境側に問題がある場合は、その環境自体が悪いのは当然の事実です。 自己決定性とは、「だから我慢しろ」ということではありません。「その環境から逃げる」「然るべき機関に相談する」「転職する」といった選択肢を、自分の意思で選び取る力があなたにはある、ということを伝えているのです。
自分を責めるためではなく、自分を解放するための考え方。それが「自己決定性」の本質です。
4. 「非建設的」な問いを、「建設的」な問いに変える
過去の出来事や他人の性格(変えられないもの)は変えられません。しかし、その事実に対する**「意味づけ」**は今すぐ変えられます。
Aさんが人生の主導権を取り戻すには、問いかけを次のように変える必要があります。
× 非建設的な問い(原因論):
「なぜ、あんな上司の下に配属されたのか?(悪い原因探し)」
→ 結論:「運が悪かった」「自分は可哀想」 (後退)
◎ 建設的な問い(目的論・自己決定):
「この厳しい上司という環境を使って、自分は何ができるか?(未来への解決策)」
→ 結論:「反面教師にして、自分は後輩に優しくしよう」「どんな理不尽な相手でもYESと言わせる交渉力を磨くチャンスだ」「ここを乗り越えたらどこでも通用する」 (前進)
5. 未来は自分の手で変えられる
アドラーは著書で**「人生のチャレンジが無尽蔵であることは、われわれにとって幸運である」**と述べています。
もし人生がすべて遺伝や環境で決まっていたら、私たちはただの操り人形です。しかし、アドラーはそれを否定します。
今の自分を作ったのは、自分自身である。
だからこそ、未来の自分を作るのも、また自分自身である。
「自分は〇〇だからできない」と言いたくなった時、思い出してください。それは「できない」のではなく、今のところ「やらない」という決断を自分で下しているだけなのです。
まとめ:今日からできること
「自己決定性」を持つということは、**「自分の人生の責任を自分で引き受ける」**という覚悟を持つことです。
何かがうまくいかない時、誰かのせいにしたくなる誘惑を断ち切り、こう問いかけてみましょう。
「この状況を選んでいるのが『自分』だとしたら、本当はどんな目的があるのだろう?」
「これから先、自分はどうしたい?」
あなたが「変えよう」と決心したその瞬間から、過去の出来事は「トラウマ」から「経験」へと変わり、新しい人生が動き出します。運命のハンドルを、自分の手に取り戻しましょう。